凍えるような孤独感は切ないほどの暖かさを与えてくれる。
聞こえ始めた聞こえぬ声は、その時の気分や感情を理解してくれることもなく、ただ寂しさから逃げ出したくなる心をそっと包み込み、心地よいぬくもりを分け与えてくれるだけだった。
ホワイトリバーとの合流地点を通過した。茶色かったユーコンの水はホワイトリバーからの大量の流れを抱き込み、さらに濁った泥水へと変化していった。
川幅も広がり、中洲はすでに島の様相を呈していた。
ここ数日、太陽が雲に隠れることは少なく、肌を刺すような日の光が降り注ぎ続けている。川の上にいれば幾分は涼をとることが出来るが、痛みを伴うほどの光線は変わらない。
間もなくユーコン流域ではホワイトホースに次ぐ町、ドーソンへと流れ着く。人の声、匂い、ぬくもりがあふれる場所に再び足を踏み入れることになるのだ。
新たな出会いと分厚いステーキとキンキンに冷えたビールが待つドーソンへ。自然とパドルの動きが速くなってゆく。
しかし、それと同時にその期待感は、ヒトの存在への恐怖心を芽生えさせた。
この地に生きる生き物たちに怯え、突然の嵐に身を小さくしている生活から、何一つ不自由のない楽園へ。
一人旅の孤独感は、いつしか自由と言う言葉とあたたかな安らぎをまとい、なんの恐れも存在しない楽園への不安と恐怖を自分の感情に残すようになっていた。
パドルを止めふと横を見ると、話しかけるには少し距離があるところに一羽のアビがフネと平行して泳いでいた。
川の流れに身を任せたフネを追い越す訳でもやり過ごす訳でもなく、ユラユラと川面を漂うそのアビは時折こちらに視線を向けたかと思うと、すぐに無関心を装い羽繕いをしてみせる。
その仕草が可笑しく、ちょっとからかってやろうかとパドルを握り直すと、遥か正面に町並みが見えてきた。
建物の人工的な風景は、まだ距離はあるがヒトの匂いや町の喧噪を感じる錯覚を覚えさせる。そして、その錯覚は楽園への不安と恐怖を一瞬にして消し去り、孤独から解放される喜びを与えてくれた。
ドーソン上陸のために舵を川岸に向ける。
ひと時楽しませてくれたアビに礼を言おうと横を見ると、すでにその姿は見えなくなっていた。
はじめからそこには存在しなかったかのように、波紋一つ残さずに、ただ水の流れがあるだけだった。
視界の中でドーソンの町並みは次第に大きくなり、徐々に聞こえてくるヒトの作り出す音は、新たな出会いを予感させ心を踊らせる。
しかし、何かを失った淋しさが、心の中に小さく疼いていた。